暴力団排除条例の重大な欠陥

暴力団排除条例の重大な欠陥
司政会議

昨年、十月一日に全都道府県で施行された暴力団排除の動きが全国で加速し、条例によってこれを排除する自治体も相次いでおります。
善良な市民をいわゆる「暴力団」から守ることはむろん必要な事ではありますが、その一方で、深刻化する中国マフィアなどに対しては手を拱いている状況でもあるのです。
バランスを欠く取締りにより、かえって海外の闇勢力を助長する可能性すらある「暴力団排除条例」の施行状況について、意見を申し上げたい。
暴力団排除条例は、条例という名目の下で、身分差別を行い、共生者という口実で第三者を巻き込み、企業名の公開などを通して、関係者に制裁を加えようとするもので、法に依拠しないこの罰則制度は、法概念上、(リンチ)にあたります。
現行の法律に欠陥がある訳でもなく、いわゆる暴力団の抗争事件や犯罪が増えているわけでもありません。にもかかわらず、今回の暴力団排除条例は、暴力団員や関係者に「反社会勢力」という烙印を押して、人間として生きる最小限の権利をも奪おうというのです。
この条例の問題点は、憲法の規定外にあると言う事に尽きるでしょう。
警察は、この条例によって、憲法の規定や司法の判断に拠らず、「反社会勢力認定」という独断をもって、取締りはもとより、企業や個人を監視することが出来ます。
暴力団排除条例が、法律であったら、そんなことは不可能です。
法は、憲法の制限を受けるので、「反社会勢力認定」などという、法律根拠のない権力行使は許されません。
しかし、条例なら憲法との整合性を問われることなく、法令として、施行されてしまうのであります。
国民を身分差別して、権力者に都合のよい社会を作るには、自由や平等を謳った憲法の規定を受ける法律より、地方議会の議決だけで制定が出来る条例の方が、よほど都合が良いのでありましょう。

暴力団排除条例には、五つの重大な欠陥があります。

1.恣意的に反社会勢力認定を行って、特定の人々の生活権を奪うことは、身分差別や人権侵害にあたる。
2.反社会的団体と利害関係をもった人を親交者と認定して、裁判抜きで氏名公表な  どの制裁をあたえ、損害をあたえることは、刑法の規定や警察官の権限制限事項に違反する
3.反社会勢力認定や親交者認定によって、対称者の家族やおびただしい数の国民が、被差別の対象になる。
4.尋問や逮捕、裁判などの法的な手続きで、告げ口や密告などを取締りの手段とすることは、憲法で禁止されている(リンチ)にあたる。
5.第三者への制裁という絡め手をもちいて、反社会的団体を取締ることは、近代法の精神から逸脱している。

暴力団排除条例に反対すると、暴力団の味方をするのか、と反発する方がいるかもしれませんが、私共は、暴力団や暴力を否定することに於いて、人後に落ちるものではありません。
しかし、法治国家においては、法の下で誰であろうと自由や平等、人権を奪われ手はならないのです。
議会の多数決だけで、合法的に特定の人を村八分にする条例は、ナチスドイツの差別政策そのものであります。
現行憲法には、行き過ぎた自由や平等に問題なしとはしません。
しかし、本来の自由や平等、人権の概念は現代の差別なき社会の土台となっています。
その社会秩序を条例という法の枠外から捻じ曲げて良いものでしょうか。
条例は、道路交通法などの法令・制度の運用に限定されるべきで、基本的人権や自由・平等などの憲法上の規定にまで拡大されるべきではありません。
そんなことになったら、我が国はニ重法の国になり条例で気に喰わない人を国外追放することが可能になってしまいます。
反社会勢力認定を恐れる企業は、やむなく退職警察官の天下りを受け入れるでありましょう。
反社会勢力認定に根拠がない以上、天下りを受け入れ、指示を仰ぐしかないのであります。
権力が、憲法を侵害し国民の自由や平等を脅かし始めようとしています。
一つの条例で国民が不利益をこうむる特殊な法令で、ひっくり返されてはなりません。

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