暴排除例施行から一年いびつな社会の到来と新たな暴力の創出 ~萬新聞より~

暴排条例施行から一年を迎えて・・・

暴排除例が昨年十月に施行され一年が経過した。
条例がきっかけでいわゆる「暴力団」幹部の逮捕につながった事例など〝暴排条例が挙げた戦果″が一斉に報道されている。
都道府県レベルだけでなく、事業者団体や市町村などでも取り組みが活発化されるなど、市民の敵への反転攻勢が始まりました、という具合だ。
事務所設置など暴力団の行動だけでなく、一般の事業者と暴力団員との取引も規制の対象となるため、これまで、普通の付き合いがあっても、違法化を理由に関係を清算する業者も相次いでいるという。
つまり、暴力団とされる団体、人物を敵視しようとしまいと、関係があることが分かっただけで取締りの対象となるのだから、事業者としても生活のため、関係をたたねばならなくなる。
千葉県などの例では、こうして暴力団員との取引が発覚すれば、事業者に対して警察が勧告を行う。
それでも効果がなければ、事業者の氏名などが公表されるという。まるで現代に甦った市中引き回しの刑だ。
これでは一般市民も萎縮して当然だろう。東京都下のある自治体では、市民の責務として、警察の暴力団排除への連携、協力を呼びかけ、情報提供を呼びかけている。
これでは、昔、東欧などの社会主義圏の国々で密告が奨励されていたのを連想してしまう。
市民が生活を守るため、理不尽な暴力に立ち向かうというならいい。
しかし、その「暴力」の内容や、それを行使する主体である「暴力団」は警察が認定するのである。
そして、その根拠は実に曖昧だ。
だから警察の利益に反するからと、ある特定の集団を暴力団に指定してしまえば、自治体によっては警察に協力することが市民の責務になってしまうのだ。視点を変えて、暴排条例以後を見てみれば、なんだか、とてもいびつな社会が到来したような気がする。

新たな暴力の形を産み出したのでは? 
 これに関連して、興味深い事件が発生している。
今年九月、東京・六本木のクラブで飲食店経営者が十数名の男に鉄パイプのようなもので襲われ死亡する事件が起きた。
現在のところ容疑者は逮捕されておらず、捜査関係者によると、現役の暴力団関係者ではない不良グループとの見方が強いという。
つまり、いわゆる指定暴力団による暴力行為とは異質の集団暴力だということだ。
しかし、そうした不良グループは暴排条例の対象ではない。あきらかな集団の暴力にもかかわらずである。
また、暴走族なども暴排条例の対象ではない。
では、暴排条例が対象とする「暴力」、あるいは「暴力団」とは一体なんなのか、頭を抱えたくなる。
こっちの暴力は「暴力団」だが、あっちの集団暴力は「暴力団」ではないなどと、その判断はあきらかに警察による一方的なさじ加減によるものだ。
あるジャーナリストは、暴排条例で締め出された暴力団の元末端構成員だった若者がこうしたグループを構成しているのではないか、と指摘している。
そうだとすれば、この新たな暴力は暴排条例によって生み出されたと言えなくはないだろうか。

萬新聞 渡邊謙二氏 より抜粋

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